切り紙の魅力と奥深さについてインタビュー|切り紙作家 上野文緒 さん

今回は当店のお客様の紙の用途についての事例をご紹介します。
切り紙の世界に触れ、独自の魅力を放つ切り紙作家の上野文緒さんにお話を伺いました。
上野さんは中国の民間芸術、特に中国の民間芸術・剪紙に影響を受けているとの事で、、その作品は独自のかわいらしさと魅力的なデザインが特徴です。
作品の裏側に隠されたストーリーと創作プロセスをお届けします。
きっかけと創作プロセスについて
KAMIOLSHOP:(以下K:)
2010年頃から切り紙を始められたとのことですが、何をきっかけに切り紙を始めようと思われたのですか?
上野さん:(以下上:)
中国の少数民族や民間芸術関連の書籍を取り扱う台湾の出版社の書籍デザインが素晴らしく、台湾へ行ってその出版社の書籍をいくつか購入したことが直接のきっかけになります。
書籍の中にあった中国・黄土高原で作られる切り紙が大変ユニークで興味を持ち、それから色々切り紙の本を買って眺めているうちに自分でも作りたくなり、見よう見まねで作り始めました。
K:なるほど、最初は1つの書籍がきっかけだったのですね。それでは作品制作の際に、インスピレーションやプロセスをどのように得ることが多いですか?
上:作風としては、何かストーリーが見えるようなものや、くすっと笑えるようなものにしたいと心がけて作っています。
資料を見たり、これまで読んだ本や吉祥図案のいわれなどから妄想を膨らませて、それに何かしらの自分の作品らしさを加えていくよう試行錯誤してしているうちに良いアイディアが浮かんだり浮かばなかったり…です。
プロセスというほどではありませんが、作りたいモチーフをしばらく頭の中に置いて、何か妄想が膨らんできたら紙に描いてみて、紙に落書きした段階で、完成形が見てみたいと思ったものは仕上がりも割と良い雰囲気になる気がします。
資料を見ながら悩んでいるよりも、ふとした時に急に思い浮かんできたものの方が楽しいものになっているようにも思います。
反対に、あれこれ資料を見すぎて悩んでむりやり作り始めたものは大体良くないです(笑)。
中国西北部の切り紙
台湾の出版社・漢聲出版社の干支ポスター本
紙の選定とその影響
K:切り紙の制作する上で紙が大事な要素の一つだと思うのですが、紙を選ぶ際に大切にしていることを教えてください。
上:はさみだけを使って作る時に選ぶ紙は、まず厚みを気にしています。それから柔らかすぎず、適度にハリがあるものを選んでいます。
和紙は薄いものがたくさんあるのですが、長時間手に持っていると湿ってきたり毛足の長い物ははさみの刃がひっかかるので選ぶのが難しいです。
特に、ワークショップで人に使ってもらう用紙選びは切りにくい用紙だと楽しくなくなってしまうので難しいなあといつも思います。
カッターを使う時の用紙はあまりこだわりはなく、厚みだけを注意しています。
K:紙の質や種類が作品に与える影響について教えてください。
上:中国切り紙では赤色が縁起が良く魔除けの意味合いもあるので、発色の良い赤色の紙で作られた作品は一般的な切り絵と違う力強さや縁起の良さが際立つように思います。
蛍光色のTANTシリーズを時々使用してますが、そちらで作った作品はポップで可愛らしく現代的な雰囲気になるので、インテリアとして飾るのにも赤色ほど目立たないので丁度良いようにも思います。
ワークショップでの皆さんの反応も、これまでの雰囲気と違う!と好評でした。
彩色の作品ではブンペル(75kg〜95kg)を使用していますが、風合いのある質感なので、作品にも少し暖かみが出ているのではと思います。
よく使用する紙の種類と特性
K:よく使用する紙を教えてください。また、それぞれの特性や利点について教えていただけますか?
上:中国の吉祥文様をベースにした作品には赤奉書紙(顔料赤柾)を使う事が多いです。
先程の回答と重なりますが、深く鮮やかな赤色が縁起の良さを引き立て、見た目も美しいので多用しています。
難点は厚みがあるのでたくさん折る図案が作れないことです。
ワークショップでいつもメインで使用している用紙はまんだら(薄口)です。
厚みがちょうど良く、二つ折りまでなら初めて切り紙をされる方でも使いやすい用紙でとても重宝しています。
また、色のバリエーションが多いので参加者の皆さんにも色を選ぶ楽しさもあり好評です。よくどこで買えるか聞かれるので、いつも御社のホームページをお伝えしています(笑)。
彩色の作品を作る時はブンペル(75kg〜95kg)を使っています。
薄く柔らかいのにコシがあるので、はさみでもカッターでも切りやすく、着色しても色が沈みにくいので使いやすく感じます。
絵の具用の用紙にも向く紙があるかもですが、絵画の知識がないので専らこちらを使用しています。
作品の色彩やパターンの選択基準
K:切り紙作品における色彩やパターンの選択基準はありますか?
上:1色の作品の場合は、はっきり強めの色が好きなので濃色を選ぶ事が多いです。
色目については伝統的なものや風水的なこだわりはなく、好きな色を選びます。
彩色の作品の場合は、日本の型染めがとても好きなので、その雰囲気を真似て彩色しています。
色の組み合わせは、美術の専門教育を受けた事がなく知識がないので、カラーチャートをパラパラめくって合いそうな色をピックアップするといった方法で決めています。
自身の作品について
K:作品において最も誇りに思う部分や特徴は何ですか?
上:自分の作るものについて満足のいくものができていると思う事があまりないので、、、誇りに思う部分というのはまだまだ持てておらず、いつもあまり自信がありません(笑)。
作品を見て下さった方から無国籍な雰囲気がするといわれる事がよくあり、それはとても嬉しい感想だと思っています。
ベースは中国の吉祥文様の作品が多いですが、その上に自分が好きな雰囲気が足され、無国籍な吉祥図案という特徴が出来てきているのかなと思います。
お気に入りの作品と今後の活動について
K:最後に作品制作でのお気に入りの作品や経験を教えてください。
上:5、6年前に製作したもので、うさぎが小槌を手に福を撒くという図案を製作しました。
昨年の卯年に合わせてそれを少し手直しした作品が、個人的に気に入っています。
この作品は中国の吉祥モチーフと日本の縁起ものをごちゃまぜにしたものなのですが、これまで作ってきた中国の伝統紋様オンリーの作品から、オリジナリティを加えた吉祥図案を作ってもいいんだということを考えるきっかけになった作品だったかなと思っています。
今回は切り紙作家、上野文緒さんのインタビューをお届けしました。 上野さんの作品は、独自の視点と創造性が凝縮された魅力的なものばかりです。
今後はよりオリジナルな作品制作や色んな国のおはなしや言い伝えをベースにした絵本の1ページのような作品への挑戦を考えているとのこと。
是非、上野さんのホームページやSNSもチェックしてみて下さい。
ホームページ:https://www.laohu-kirigami.net/